『酔』
『待ち合わせ』
『振り返る』


待ち時間

 

この店で待ち合わせの約束をしたのは、仕事帰り。
耳元で店と時間だけ指定してすれ違っていった僕の恋人。
彼のスーツの広い背中を見送りながら、僕は会社を後にした。

いつもならLIMEで連絡くれるのに、今日はたまたま目の前にいたからかもしれないけど。
それでも、普段と違う行動は、ドキリとさせられる。

 

「お連れさんは、まだ来ないの?」

 

カウンターに座っていた僕に話しかけてきたのは、初めて見る顔。
ここは、相手を探しに来るヤツもいる、いわゆるゲイ専門のバー。
僕好みのダークなスーツを着こなしていて、フリーだったら、すぐに相手をしたかもしれない。
でも、今の僕には彼がいる。

 

「・・・もう来ますから。」

 

それだけ言うと、僕は目の前のビールを口にした。
だけど、悲しいかな、2杯目のビールも、すでにグラスの底も見えてきてる。

 

「でも、もうそろそろ、この店に来て1時間くらい経つんじゃない?」

 

そんなに僕のことを見てたのか、と思うと、イラッとする。
実際、彼からの連絡はまだ来ないし、男の言う通り、もう1時間近く待っている。

 

「隣、いいかな。」

 

さすがに、僕の気持ちも折れかかってきてたところに、こんな風に優し気に話しかけられたら、断る気力がわいてこない。
それを見越してか、相手の男は何も言わずに、自分のグラスを持って座った。
俺は相手をするつもりはなかったし、相手に話しかけられても相槌すら打たなかった。
そんなことを気にするでもなく話を続ける相手の声は、僕にはほとんどBGMと化していた。

この男が隣に座ってから、そろそろ30分経ちそうになった。
その間に、僕はビールから、ハイボールに変えた。
彼が来てから食事をするつもりでいたから、ずっとナッツをつまんでるだけ。
相変わらず、連絡がない。

 

『今日は、無理なようですね。もう、帰ります。』

 

この時間だったら、終電前には帰れる、と思ったから、LIMEでメッセージだけ送る。
最近、互いに仕事が忙しく、なかなか時間が取れなかっただけに、久しぶりに会う約束ができて楽しみにしてただけに、連絡もしてこない彼を待つのも、もう限界だった。

僕は目の前のバーテンに"チェックお願い"と言って、席を立とうとした。
酒に強くないのに、今日は少し飲みすぎたのだろうか。
少しだけ、ふらついてしまった。

 

「おいおい、大丈夫かい?もう酔ったのかい?」

 

隣の男が立ち上がり、僕を支える。

 

「ああ、すみません。大丈夫ですから。」

 

そう言って、相手の腕を押して離れようとしたのに、相手が強引に腕を掴んでくる。

 

「私のとお会計、一緒でいいから。」

 

そう言うと、僕のことを抱えるように店を出ようとする。

 

「ほ、本当に大丈夫ですから。」

 

何度もその人の腕から逃れようとしてるのに、相手の力の方が強いみたいで、離れられない。

ああ。

もう、なんで、こういう時に限ってあなたはいないんだ。
そう思うと、悔し涙が溢れそうになった。

相手を振りきれない僕に。
こんな気持ちにさせてる彼に。

ふらふらした僕を抱えながら店を出ると、男はどこかに向かって歩き出そうとした。
その時。

 

「航大(コウダイ)?」

 

僕の名前を呼ぶ、彼の声が聞こえた気がした。
ふらふらしながら、振り向こうとした僕に、抱え込んでた男が無理やりに前に進もうとする。

 

「航大だろっ?」

「隼人(ハヤト)?」

 

僕の声は、彼に届いたのだろうか?
急に隣の男が離れた。

 

「何してんだよっ!」

 

どうも彼が、男につかみかかったらしい。
二人は何か言い合いをしながらも、途中で、男のほうが何か捨て台詞を残して走り去っていった。
その間僕は。
壁に背中をもたれたまま、ぼーっと見ているだけ。

 

「航大、おい、大丈夫か?」

 

心配そうに僕を見ている彼の顔に、なぜか安心している僕がいる。

 

「遅いです・・・」

「悪い。」

 

そう言うと、僕の身体を支えるようにして腰に腕を回した。

 

「本当は、すぐに会社を出られるはずだったんだ。だけど、ちょっとトラブルで、つかまって。」

 

そんなことはいつものことなのに。

 

「だったらLIMEくれればいいじゃないですか。」

「・・・今日、出先でスマホ落としてディスプレイが壊れて使えない。」

「・・・・は?」

「だから、トラブルさえなければ、会社出たらすぐにショップに行って代替機借りるつもりだったんだ。だけど。」

「・・・どんだけ待ったと思うんです?」

 

本当に、もう。

 

「ごめん。」

 

正直、捨てられるのかな、と、不安になった。
久しぶりに呼び出されたのが、この店だったから。
俺に、他の男を探せ、というのを暗に伝えようとしてるのかと、考えてしまったから。

 

「・・・僕が浮気性じゃなかったことに、感謝してください。」

 

僕は、思い切り彼の身体に体重をかけた。
それでも、僕くらいの体重じゃびくともしない。

 

「航大は、そんなヤツじゃないって、信じてる。」

 

まったく。この人は。
僕は、思い切り彼によりかかりながら、彼は、僕を大事そうに支えながら、一緒にいられる場所を求めて歩き続けた。

 

-Fin-

『街灯』

『僕だけが』

『魔法の言葉』


暗い道

 

二人歩くこの道。
川沿いの土手の道は、街灯がポツリポツリとしか照らされていない。

 

小学生の頃から、共に帰る道だった。
それは中学にあがっても変わらなかった。
そして、今、高校に通うようになった僕たちは、相変わらず同じ道を歩いている。

 

小学生の頃は、同じような身長だったのに、気が付いたら僕の方が頭一つ分伸びてしまって、幼馴染の貴士(タカシ)を見下ろすようになってしまった。
小柄でぽっちゃりしている貴士は、女子にも男子にも可愛がられている。
何気にみんなのペットのような存在になってる。

 

だけど、本当は。

影で悪口を言っている奴らがいるのを、僕は知っている。

 

「カワイイよね」

 

と言った口が、

 

「でも、あいつキモいよね」

 

と言ってることを、僕は知っている。

 

貴士自身はそんなことを知らない。
いいんだ。それで。

 

『僕だけが君の味方だ』

 

まるで刷り込むように、そう何度もつぶやきながら、貴士のぽっちゃりした手を握る。
この年になっても、僕と手を握ることを嫌がらない貴士。
ニコリと微笑んで僕を見上げる。

 

『僕だけが君の味方だ』

 

まるで魔法の言葉のように、貴士の手の甲を撫でながら、言い続ける僕。
僕の微笑みに、頬を染める貴士。

 

『僕だけが君の味方だ』

 

それは嘘ではない。
貴士、君が僕のそばにいる限り、僕は君の味方だよ。

チリチリと点いたり消えたりする街灯の下を、帰る僕たち。

 

そうだよ。

 

君がそばにいる限り。

 

「痛いよ。」

 

思わず強く握りしめてしまった。

 

「ごめん。」

 

僕たちは、ずっと同じ道を歩くんだ。

たとえ、それが暗い道でも、二人なら、歩ける。

 

-End-

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